六月の俺は当たり月であった。
ぶっ飛んでしまうブツを、相当数入手出来た。
やばいぜ!
なので六感が冴えてきている。特に聴覚が二十代の頃の様に、順応性をもって体中の細胞という細胞に昂揚感を染み込ませてゆく。
それに反して肉体はボロボロと壊れてゆく。
歯は欠けるし、骨も折れる。節々は軋むし、疲れやすくなっている。
あともう少し休日があったなら、自分を一から鍛え直したい。
旅にでも出てみるか……。
なんとなくだが、世界規模でペテンにかけられている様な気がする。
嘘を造るのは人間様だけだ。
騙したり、誤魔化したり、色んな職種を渡り歩いたが、何処へ行っても「正直者は馬鹿をみる」が全開なんだな。
商売って云うのはそういうものかと思っちまう。
挙げ句の果てには、商売する方もされる方も保険をかける始末で、どこに責任を取らせるつもりなのか分からない。
銭は魔物だぜ!
俺はプロフェッショナルを目指すぜ!
その為には、より一層冷静さを保たなくてはなるまいな。
「彼」と、俺と、それからと、これから。
時の流れは少しづつだが確実に、如何なる出来事も過去へと追いやりつつ影を薄めて、やがては当人と伴にこの世から消し去る。
時が経てば文字や言葉にしたところで「ソレ」は「ソレ」でしかなく、「ソレ」に伴うなんやかやも曖昧になってしまう。
それではこの世に起きる事象の全ては、まるで意味の無い事なのか? って彼は言うけれども、そうであるかも知れないな。
大体が、この世に真実なるものが存在するのか、しないのか?
仮にあったとしても、結局どう立ち回るかで物事の様相は大きく変わってしまう。
あの時、どういった選択がベストであったのかは、今になっても分からない。
「覆水、盆にかえらず」考えるだけ無駄なのかも知れない。
しかし、彼は考えた。出来るかぎり考えた。
分からない奴には、その考えると云う事の重みなど理解出来ぬだろう。
兎に角、彼は明けても暮れても考えた。そして、彼が考え悩む間も、時は悠々と流れていった。
その流れが更に彼の考えを急流や寒流、または清流へと変えていった。
そうして終に彼なりの「落とし所」へと行き着いた。
こう書いてしまうと、簡単に辿り着いたかの様に思えるかも知れないが、片手程の年令を数えた。
その間に体を壊し、秘密の職にも従事して苦い汗をしこたま流した。
俺が事の顛末を彼から聞いたのは、全ての片がついてからだった。
その「落とし所」はこれ以上は無いと云う位に完璧であった。
おいそれと他人が真似出来ぬ程に完全だった。
そして失礼ながらも俺は、そこまで彼が深く考えを巡らせていた事に驚き、ちょっぴり感動した。
「気持ち」なんてものは生半可な事ぢゃ形にならない。
未来をつくるのは「心意気」しかない!
あくまでも個人史なので詳細は省きますが、まだまだ「心意気」のある奴は存在します。
「あんた、男のどこら辺?」――矢沢 永吉
終わり
「彼」と俺
再会したのは池袋だった。
顔を会わせると二言、三言は交わす位の距離。
個人的な話をするにはまだまだ月と地球位に離れている。
俺はバンドマン、彼は元格闘技。それはお互い知っていたと記憶する。
更に一年後の夏、今度は練馬で再会する。
あの年は猛烈に暑かった。
確かあそこでカミさんと娘を初めて見た。
娘が水疱瘡で病院へ行くと言っていたっけな。
ちなみに、その頃から娘は彼に瓜二つ。
大分、砕けた話もするにはしたが、お互い相手に興味など無く、当たり障りのない上辺でやり過ごす感じ。
俺はその時期が一番「狂ってる」頃なので、細かい記憶は全般的に曖昧だ。
だから、その翌年の春だったのか、それとも翌々年の春だったのか忘れたが、彼のオフクロさんが亡くなった。
奇しくも時を同じくして、俺は彼と一緒に働く様になる。
同世代である俺から見た彼と云うのは、我儘の一言に尽きる!
以下、細かいディテールを箇条書きで。
大食漢である。
感情が昂ぶると極度にヒステリック。
悪どい。
妙に神経質。
勿論、良い面もありますが、上記の部分が突出し過ぎで圧倒的だった。
俺はむしろ彼の娘と仲良しだったな。
俺は昔も今も見た目は「柄が悪い」って言われるが、女の子には好かれるんだなぁ。
女の子にはね……。
兎に角、色んな事がお互いの間を行き来して、月日は飛ぶ様に過ぎていった。
そして、あの事件が起きちゃったんだよな……。
つづく、かもね。
はじめに
動機について
「兎に角、俺の事を書いてくれ」
そうおっしゃる方が居りまして、何かを書かねばならぬ。
しかし、いざ書いてみようにも、何をどう書いたものかと見当がつかぬ。
なので、幾通りかの縛りをつけて書いてみるとする。
――その1 「彼」と云う人
東京に生まれ、東京で育つ。中学を卒業した後、家業へ入る。今や代表取締役である。
だらしのないのが嫌いのようだ。概ね、身なりや住まいはきちんとしている。
その反面、締まりの無いところも十分ある。
特に下の方は呆れるばかりだ。
トイレではない場所で平気でしゃがんでしまう事が多々ある。
経済観念はしっかりとしたものを持っている。
お金は、持っている、持っていないではなく、使い方なんだな。
その2 「彼」と云う青年
俺が彼を初めて見かけたのは、どこぞの氷川神社だった。
別段、気に掛ける様な事もなく、防寒服を着て歩いていた姿を見た事があると云う位の記憶だ。
実際に会話を交わし、彼に認識を持ったのはそこから一年半後の事。
だが、まだ彼が何者であるのかを知る由はない。
俺も彼も若かった。
無論、まだ接点の無い二人だから、お互いがどんな未来を想像していたのかは分からんが、少なくとも相手が中年になってまで付き合いが続く相手だとは思っていなかったはず。
どうやら二人とも言葉使いがひどかったと記憶する。
つづく、 かもね。
???
1960年代にThe Yardbirdsが英国のラジオ番組に出演した時の事、ホスト役の英国先輩ミュージシャンにアレコレ先輩面されて能書きを言われたので、ベース奏者が喧嘩をふっかけたんだとよ。
その先輩ミュージシャンと云うのが、かのアレクシス・コーナーなんだけど……なるほどね、先駆者の一人としての功績は大きいであろうが、「何かがおきている」事には気がつかなかった訳か。
厳密に言えば俺はマニアではなくてオタク、重箱の隅を突くよりは自分の心の隙を突くのが好きなもんでな。
純粋であったり、真摯であったりしてもダサいのは大嫌い。
The Yardbirdsには「Shapes Of Things」って云うイカしたナンバーがある。
作曲者クレジットには二人の名前が連名してあり、あの喧嘩をふっかけたベース奏者はその一人だ。
ブルース音楽って云うのは人間のある部分を確実に掬いとっているが、決して全てでは無い。
それはジャズでも、カントリーでも、レゲエでも然り。
根っこは一緒だに。
俺はあらゆる「かくあるべき」な連中に飛び蹴りをお見舞いするのだ!
生まれてからこのかた、計画性と云うものが人一倍欠落しており、慢性的に頭痛がする事も手伝って自棄になる場面が多い。
本当にまったく、冷静さを常とすれば百万長者位にはなれたんぢゃないだろうか?
ごく稀に一目惚れの様な錯覚は、自分の中にだけ大きく価値を据え付け「毒食らわば皿まで」と、効率であるとか、割りなども台無しにして、挑戦に次ぐ挑戦で気がつけば能無しである。
貧弱な左手にぎこちなく呼応する右手。
「信じている」とか「諦めない」とかぢゃないんだ。
あの個人的な高みへ引っ張り上げたいの!
身も心も。
名前の無いモノに名前をつける様な真似はしたくないわけよ!
この大気と云う大気の中にどれ程のモノが漂い流されてゆくのか? その行く先は何処であるか?
否、行く先さえあるのか、ないのか?
ただ、一つの「調子」と云うものがあって、そいつが行き来する通り道は無限にあるんだな。
生まれや、育ちや、好みによって色香は様々だ。
仲間内にオメデタがあった事を人づてに知る。
ここは一つ祝いの一言でも言ってやろうと電話をすると、受話器の向こうで相変わらずのシケた声が面倒臭そうに受ける。
「こいつはまったく、昔からシケてやがる……」
実のある話をしても、実のない話をしてもこいつぢゃ埒があかないので、早々にカミさんに代わらせる。
ところが、まだ安定期に入っていない彼女は床に伏していたいところを起こされた為、不機嫌そうに電話口に出てきた。
ありゃりゃ……ゴメンよ。
「これを(ツワリを)味あわせてあげたいよ!」なんて言われてもなぁ、俺は逆立ちしても無理。男なもんでな。
自分でも根拠がよく分からないままに「モーツァルトを聞け」と勧めた。
そして、ちびっ子が生まれるにあたっての、俺からのお願いを一つする。
そのお願いの内容は、百人中百人が間違い無く断る様な事だのに、了承を得てしまった。
そのお願いとは……、
「男の子が生まれたらメジャーリーガーにして、契約金ガッポリ獲って俺達の(仲間内皆の)老後の面倒をみてくれ」って事なんだけど、O.Kなんだ……。
いや〜実際メジャーリーガーになる、ならないはともかく、「面倒みてやる!」って言ってのけた太さにシビれたよ!
惚れたね、その心根に。
丈夫で元気なら、それで良い!
おめでとさん、チエ坊。
食糧危機サミットのニュースをテレビで見た。
ハイチでは泥のクッキーを食べて飢えを凌いでいると云う。
自国での米の生産が激減したところへの、食糧高騰化が追い打ちをかけていると云う。
十三年程前から「安い」と云う理由でアメリカ米をバンバン輸入していた事で、ハイチの米生産者は殆ど廃業してしまったらしい。
俺はテレビの報道を見ただけなので実際問題どうなのかは知り得ないが、いたたまれない思いになる。
お米を作るっちゃ大変だ。
同級生でも米農家を止めた奴、農協から離れて作り続けている奴、皆それぞれ深い事情がある。
そんな話を彼等から聞くたびに思うのは、かの大国が彼等にとってとても厄介者であるんだと云う事。
もう六月ともなれば田植えも終わり若干忙しさも半減しているであろう米農家の人達は、あのニュースをどういう風に見ただろうか?
泥のクッキーだなんて……。
あいつと、こいつと、そいつ、それぞれの用件で皆様久方ぶりの電話。
あれとか、これとか、それの事を考えたり、悩んでいたるらしい。
長生きしている猫の話とか、本栖湖で溺れた奴とか、浮き世の事情通みたいに嘘吹く奴。
俺達の行進曲に合わせて、