Stray Cat Blues

俺たちにも明日はある!

下弦の月は薄青く浮かぶ

2007/04/27(金)


誰でも一人きりになりたいと想う時はあると思いますが、結構一人きりになると云うのも考え物でありまして、個室に閉じこもり内側から鍵を掛ければ簡単に一人きりにはなれるのだが、私の場合密閉された空間では妙な孤独感と閉塞感の息苦しさで我慢出来ずに、飛び出しては電車に乗って東へ西へと雲隠れする訳です。

雲隠れすると云っても一駅や二駅移動した位では一人きりになどなれるはずもなく、ましてや進路が都心では話の外ですから自ずと山だの海へ向かう訳ですな。

どれほど腕に自信があろうとも大自然には適いませんや。

ま、意気がっても、意気がっても上には上がいる訳ですから、どうせ適わないなら自然界にこの身を丸ごと放り込んで委ねてみれば、聞こえてくる声は以外に救いの手を差し伸べてくれるものです。

――兎に角、海が見たかった。
ただ、ただ寄せては返す波をひたすら眺めて居たかった。
ここの海の良い所は、海水浴シーズンでも余り人が居ない事だ。
つまり、周りに人は居るけれど邪魔にならない距離感で、遠くなく近くなく、断絶と孤独の中間位のポジションで一人きりになれる。

俺は馴染みの海の家と公衆トイレの丁度真ん中にビニールシートの陣地を構えた。
道の向うのウォーターバイク屋のおやじもすっかり顔馴染みだが、余計な事を尋ねてきたりはしない。
何時の間にか「海に行く」が「ここに来る」と同意語になっていた。
得も云われぬ充足感だ。
ふと、下手の街道からテリアを連れた、歩き方に癖の有る婆さんが近づいて来て、「暑いね」と言いながら俺の隣へ腰を下ろした。
婆さんは何でも大病を患って、片足を引きずる様になってしまったらしい。
歩き疲れて少ししんどいし、小休止がてら俺に話かけてきたと云う訳だ。

「こんな所に来なくても若い娘達が居る方へ行けば良いのに」

「いいんだ。俺、一人で考え事をしたかったから……」

「あのね、あのトンネルの向うに崖があってね、皆んなソコで心中するんだって」

「……。」

「もっともアンタは一人で来てるみたいだし、心中は無理か」

言葉を失ったままの俺。

「あたしも体不自由になっちゃって大変だけどね……」

そして彼女の可笑しくも哀しい人生訓話が語られ、最後に

「コレ、持ってきな。今朝、家の畑で取れたやつ」

と言ってコンビニ袋を差し出して来た。
中を覗くとイボイボが沢山ついて、三日月の様に曲がった胡瓜が何本か入っている。

「あたしもそれ食べて頑張ってんの! アンタもそれ食べたら頑張れるよ」

あれから、一人きりになる時は何時も胡瓜は持参している。
  1. 山川草木
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あんたが大将

2007/04/26(木)

グラちゃん。

俺にスコップの使い方を教えてくれた人。

俺達は、朝となく夜となく掘り続けた。

関東ロームの赤土を

割栗の砂利層を

岩盤になる青土炭を

幾日も幾日も掘り続けた。

珠の汗と湧き出る地下水と湿気で全身を濡らし

波打つ鼓動に押さえ付けられて何も喋れずに

見下ろせば足が竦む程の深さまで掘り続けたんだ

どんなに頑張ってもグラちゃんには適わない。

鉄人の様な男。グラちゃん。

グラちゃんは手にした給料の殆どが飼い葉代にかわる。
多分、いまだに週末は府中か後楽園で気をはいているに違いない。
俺も何度か同行し、予想とは程遠い山勘であぶくをちらしながら、「やっぱ、適わないなぁ〜」とグラちゃんの後ろ姿を追い掛けてばかりいた。

グラちゃんには帰れる場所が無い。

グラちゃんには上も下も無い。

グラちゃんは経験から得た技術と知恵で生きている。

ダイヤモンドなんぞに目を奪われず、石っころのまま生きている。

俺達の地球は泣きたくなる程に固い。

その泣きたくなる程の塊をグラちゃんは掘ってゆく。

飢えを凌ぎ、与太を捲くには掘るしかねぇもんな。

スペースシャトルが大気圏を突き抜けても、俺達の飢えと与太は治まらない。

この固い塊を掘っている時、俺とグラちゃんの間には信頼も、裏切りも、真実も、虚構もない。

言葉も、感情もない。

ただ、ただ明日があるだけだ。

グラちゃん。朝青龍はやっぱ強いやね。

グラちゃん。今年の巨人は強いかね?

グラちゃん。最終レースで相変わらずドボンかな?

グラちゃん。俺の歌が聞きたいか?

グラちゃん。会津磐梯山へ行きてぇな。

いつかはスコップを置く日が来るだろう。

いつかはギターを置く日も来るだろう。

グラちゃんよぅ……。なんだかアンタに会いたいぜ。

石っころのグラちゃん。

昭和の男。
  1. 山川草木
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Like A Rolling Stone

2007/04/24(火)

20070424162642

「どんな気がする?」と言われてもなぁ〜、中々言葉にはならないぜ!

確かにある意味「帰れる場所」はもう無いし、「誰も知らない」俺様だがね。

さてね、俺は転げ落ちたのか?
今ぢゃすっかり縮こまったのか?

まぁ、何れにせよ簡単に見下されちまったんだから落ち目ではあるんだろうな……。

俺は幾晩も胸の内の廃墟の街を彷徨い、Highway 61へ続く出口を探し続けた。

俺はQueen JaneとBUICKに飛び乗りMr.Jonesを訪ねた。

そして親指トムと墓石のブルースを吠える様に歌ったが、悲しみの列車が走る線路はどこまでもどこまでも続き、石ころみたいにガチガチな俺はとり残されるばかりだ。

「どんな気がする?」

そんなもんがそう簡単に分かってたまるか!

ところが!? 窓の外ではあの月が俺を迎えにきたみたいに、まるで同じに無表情で流れてゆく。

諦観してゆく老いと、暴挙へひた走る未熟さが、混乱の葬送曲に折り込まれて全てを持て余す。

なぁ〜んだ! もうすぐにでも行く時間が近づいていた事を忘れていただけか……。

立ち止まって腰を据えちまうと、すぐにぬるま湯にどっぷり浸かって記憶喪失を気取っちまうぜ!

いっその事、本当に記憶喪失になっちまって賢く生きていきゃぁ〜良いものをよぉ……。

でもな、生きてる内は地駄馬駄しねぇとな。

法隆寺は誰が作ったのか?

大工さん。

これをひっかけ問題だって言うのか、それとも真実だって言うのかが大きな意識の別れ目だ。

勝てば官軍だとか、3÷2=1.5なんて俺には欠伸の出る話だ。

生半可な奴は石ころの真似なんかをするな!

「石ころには石ころの意志がある」 By G.K.K.

鉄筋コンクリートとアスファルトで生き埋めになってる石ころ達の事をしってるか?

No Homelessには税金も借金も無い、心の家があるのさ。
それがどう云う意味だか分かるかい?

俺は心臓をドクドクと鳴らし、ぶつかり合い火花を散らして転がってゆく。

ノーリスクで火遊びする奴は小綺麗にネクタイ締めてままごとに夢中。

言葉で全てを理解できるのか?

しかも安っぽい字面で薄っぺらな感傷や憧れ、そして泣き落とし。

石ころと目が合えば簡単に下を向いて「すいません」だ。

おまえは誰だ! 誰なんだ!

俺は雑居ビルの三階で目を覚ました。

俺は体中の全ての細胞で呼吸する事を学んだ。

俺は音速も光速も超えて意識がかっ飛んで行くのを見た。

そして俺は「石ころには石ころの意志がある」言葉と音と体感に身を焦がした。

もう行く時間だ。

イグニッションは動き出している。
  1. 山川草木
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レスポールが重たすぎたんだろ!

2007/04/20(金)

20070420041325

俺がその昔に住んでいた荻窪のアパートには、入れ代わり立ち代わりに色んな奴が暮らしていたが、お互いに名前まで知っている間柄になった奴は少ない。

ホストに、雀士に、パチプロに、格闘家に、アニメーターに、バンドマン……etc。

俺はそのアパートに十三年位居たが、十年目をむかえた辺りで隣の部屋に越してきた彼とは折り合いが悪く、若干険悪なやり取りが多々あった。

まぁ、経緯は大人気ない話なので省く事にするが、そんな高級マンションに暮らしている訳でもあるまいし、ある程度は「お互い様」ですよ。

なんだか勘違いをして俺を脅かす様な真似をするから逆に脅かしてやったら、その辺の理解を得たらしく「お互い様」の生活に治まったが、行き来は無くなってしまった。

そんなこんなで月日は流れて、ある日アパートの自分の部屋に居ると珍しく彼が訪ねてきた。

なんでも体調不良が続き故郷の北海道へ戻る事になったという。
明後日に引っ越すのだが、なんせ北海道だから荷物を出来るだけ整理したい。
なので良かったら彼の楽器を貰ってくれまいかと云う話だった。

返事を詰まらせ「う〜ん……」と悩んでいると、取り敢えず見るだけ見てみろと彼の部屋に招かれる。
引っ越しを控えた簡素な部屋は少し寒々しかった。

おもむろに渡されたギターケースの中から出てきたのはグレコのレスポールモデル。

「ほほぅ……」

俺は軽く爪弾き、即座に楽器がまだ「生きてる」事を感知した。

それは彼が高校生だった頃に入手したモノで、今の今まで二十年は愛用した一本だったと云う。

「きみはギターが上手いよなぁ。壁越しに何時も感心していたよ」

「まぁね。それほどでもあるよ」

「……だから、貰ってほしいんだ」

俺はすっかり「ギターが上手い」の一言にほだされて譲り受ける事を了承してしまった。

すると、やれワウペダルも持ってゆけだの、アンプも持ってゆけと目の前に並べ始めて、挙げ句の果てにはアナログ・レコードも持ってゆけと言う。

彼は俺よりも五、六歳年上で、青春時代がハードロックの世代だった。
だからレコードもほぼハードロックのモノばかりで、余り食指が伸びず聴いた事の無いバンドばかりだったが、これも機会かと貰う事にした。

そして、初めて彼の身の上を聞き、音楽体験談を聞いた。

「いや〜良かったよ、君に貰ってもらえて。君は本当にギターが上手いからなぁ〜。」

「体調に気を付けて達者でやって下さい」

「しかし、アレだな。君はギターが上手いけど、歌は上手くないな! もっと練習した方がいいよ」

「なに言ってんの! 俺は歌がいいんぢゃない!」(笑)

「いや、何時も聞いていたけど、歌はもっと練習した方がいいよ」(真剣)

「とっとと北海道に帰りやがれ!」(笑)

――今、その時のレスポールモデルは俺の友人「地獄の鬼より恐い」S氏が愛用している。
すこぶる調子もいいみたいでかなり弾き込んでいるらしく、あのギターの行く末も安泰だ。

「そんなに使える楽器だったか?」

「ええ。最近のコピーモデルより断然良いですね。しかし、コレ、なんでこんなに重いんですか? まるで石の塊ですよ、この重さは!」

そういえば、北海道へ帰った彼はヘルニアだった……。
  1. 山川草木
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ちょっくら、ごめんなすって!

2007/04/17(火)

20070417005303

かれこれ二年半に渡り愛用しているコイツは、とあるレンタル・スタジオのレンタル楽器だった。

出会ったのは、そこから更に遡ること一年。
スタジオへリハに向かう道中で、俺の不注意から持参の楽器を壊してしまい、沈んだ気持ちでレンタルを申し出ると渡されたのがコイツだった。

「なんぢゃ、これ?」

明らかにGIBSONのDoveモデルのコイツは、「Jagard」と云う国産メーカーのモノだった。
それまで俺は「Jagard」なんてメーカーは聞いた事が一度もない。

「けっこう笑えるでしょ?」

スタジオの店主は得意気だ。
コイツは体中をトラモクで着飾っている。
しかも「バリトラ」だ!

「古道具屋で壱万円位で見つけてさ。丁度レンタルするアコギがなかったから買ったのよ」

ありえない……。

と、云う事はこのトラモクはシールだな……。しかも「Jagard」だなんて……なんて嘘臭い楽器なんだ!

手に取ると今まで余り使われていなかったのだろう。傷みの出てる部位は見当たらない。
ただ経年変化による縮みでピックガードは若干浮いている。

「あぁ、造られたのは70年代位かな?」

おそるおそる鳴らしてみると……まるで鳴らない。
ネックグリップもこんなに太いのは珍しい。

「なんぢゃこれ、ますます嘘臭いぜ」

気に入りました。

実際、レンタル楽器ゆえに弦はくたびれているし、張り替えたら少しは本領を発揮するかな?

張り替えてみると……やっぱ鳴らない。

見た目の嘘臭さは最高だけど、ライブ向きぢゃぁねえな。

その晩、店で使ってみるとバランスの悪さだけが目立つ憎い奴と判明する。

そんな具合で、気にはなるけど手は出ない微妙な楽器として馴染みのスタジオへ返却。

その後、方々でその話をふれまわり「欲しいけどな……」と溢しながらも、スタジオとの交渉(金額とか諸々)がうまくいかずに月日は流れ、年の瀬のワンマンライブを控えたある日、

「少し会って話しようや」

と、昔のバンド仲間に呼び出される。
なぜか彼は片手にギターケースをぶら下げて待っていた。

「ほらよ!」

彼はそう言って俺の目の前でギターケースを開ける。すると中にはJagardがいるぢゃないか!

「ワンマンライブおめでとさん。これクリスマス・プレゼントだ」

どうやら彼は、俺がギター一本ぶら下げて歌い、挙げ句の果てにはワンマンライブまでやるようになるとは大したもんだと思ったらしい。
そこで一つ労ってやろうとコイツを持ってきたと云う。

「でも、コレ、どうやって手に入れたんだよ?」

「……いや、それは……」
彼は自分の楽器をスタジオに持ってゆき、「コレと交換してくれ!」と云う大胆な作戦で手に入れたと言う。

――不出来であると云うのは、裏返せば個性的だって事だ。俺は喧嘩したり、寄り添ったりしながらJagardと歌い続けた。

うむ。コイツは今、何度目かの音の変化を迎えている。
楽器は呼吸させてやると音楽的な息遣いを自分で覚えてゆくからね。

俺は器用にアレもコレもと出来る人間ぢゃないが、思い込みと勘違いが常人の二万倍位あるので、一度分かり合えれば途端に宇宙一になってしまう。

俺とJagardは足取り軽く、またBig Roadを歩きだすのだ。

エブリバディ! 「ロックごっこ」なんてしてる場合ぢゃないぜ!
  1. 山川草木
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ある日、ある時に……それから

2007/04/16(月)


俺は彼女と『Blood On The Tracks』を聴いていた。

間接照明のスタンドライトが薄ぼんやり照らす部屋で、彼女はケタケタと笑った。

俺は傍らでディランの歌に身を委ねながらも、頭の中にラスコーリニコフの名が浮かんでくる事が不思議でならない。

全てを信じようとする時に、目の前で立ちはだかる一番の強敵は自分自身だ!

俺はほぼ、99%の割りで宇宙の何にも負けやしないのだが、確実なモノだの、絶対的なモノだのと云う不確かなモノに縋ろうとするナルシストに足元を掬われ、初めて自分に負けそうになった。

俺は丸裸になって「運命のひとひねり」を聴いた。

俺はラスコーリニコフの事を考えながら「きみは大きな存在」を聴いた。

俺は彼女の手を握りながら「愚かな風」を聴いた。

そして、背中の方で「ブルーにこんがらがって」いた過去が、影を潜めだした気がした。

俺は彼女と山に登った。

彼女は「滝が見たい」と揚々と山道を進んだ。

山の上の静寂さが、俺の体から邪気を吸い上げるのが有りありと分かった。

樹齢ナン十年か、ナン百年かの杉や檜が、想像を超えた寛容さで俺を掬いあげた。

木の肌に触れてみると、「生きている」体感だけが重要だと耳打ちされた。

問題視すればするほどに「正解だ」「不正解だ」と難癖を付けて、誰の為にもならない事を考えてしまうなんて馬鹿馬鹿しいぢゃないか!

彼女の後ろ姿を追いながら、滝へと続く山道を渡り、頭の中にはラスコーリニコフの姿があった。

日暮れ前には滝に着き、そこで俺は彼女と口づけを交わした。

頭のずぅーっと上の方ではホオジロが小さく鳴いている。

そして、俺は歩けるだけ歩き続けようと決心した。
  1. 山川草木
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