
きっかけは何時も大体同じだ。
その根底には、ある一つの脳内に植え付けた「方向」がある。
確か、あれは小学生の頃の事だ。
話の前後は忘れたが、その一節だけが何年間も風化せずに体の中に残っている。
「人間は97%の確率で五体満足で生まれてくる。」
もう大分昔に読んだ記憶なので、今では数値が違うかも知れない。しかし決して100%では無いだろう。俺が読んだ物は「人間は」となっていたが、実は自然界ではあらゆる生物が100%先代から総てを受け継ぐ訳では無い。
たった今、俺は思考するスピードさえも追い抜く勢いで吐き出そうとしている為、誤解を招く事があるかもしれない。多分、結論だの答えの様な物も提示しないだろう。これは挑戦なのだ。もう決めた事だ。今日、出会った彼への何かだ!
五体満足とは何だ? この定義を細分化していくと、果たして「誰が五体満足なのか?」と云う禅問答の様な物になりそうだ。
例えば昆虫や植物では変種と云うものか? しかしそれは不具だと云う事でもない。むしろ生息する環境に応じ自ら変化していった種もいるのだから。
俺が思う3%とは、染色体に欠損があったとか、先天性の何かの話だ。
これも昆虫の話だが、広い自然界でも稀に近親交配による奇形なり短命で終わってしまう者もあるようだ。
俺が今日出会った彼は、仕事中に一人でブツブツ喋っていた。
ちょっと気にしてみたら
「死ね。死ね。」
と言っていたようだ。俺が見た感じでは、明らかに誰かに言い放っているのだ。独り言ではなく、会話をしている風なのだ。
直観的に「やばいな」と思ったら、先の一節が走り抜けた。
彼が異常であるとか、正常なのかと云う事ではなく、何が一体そうさせるのかという事が俺を占領しきって、あらゆる方向へ迷い込ませ時間を止めてしまう。
一緒に居たHは「あいつ、おかしい」で片付けていた。それでH自身の世界では解決したのだ。俺はHを責めようなどとはしない。
それよりも俺自身の中では、そのHの一言で何かが余計に肥大して考えるのでも無く、思うのでも無く、兎に角、何かを感じさせるのだ。
俺は自分の為に、彼に幾つかの質問をした。
仕事の事。通勤の事。出身地。
そうだ。彼は自分で働き、自分の車で通い、自分で生きている。
「お疲れさま」とはっきり言い、今日の労働を終わらせたのだ。
なぜか少し安心した。案ずるより生むがやすしなのか?
まず間違い無く、彼にはもう会う事は無いだろう。勿論、彼も俺の事を忘れるのだろう。そう、それだけの事なのだ。
でも確実に何かが渦を巻いて、また3%がどうのこうのと考えだす。
「全ては円なんだよ。丸だよ、丸。そういう風に考えるんだ」
昔、俺の考え方は「棒のようだ」と言った人がしてくれたアドバイス。感覚のどこかでは掴めるけれど、これだと云う決め手が無い。それだけの事なのか?
俺は飛び降りちゃったあの娘の名前を、なんとか思い出そうとするが果たせない。一緒にキャンプに行ったのに。それだけの事なのか?
感情が先走る言葉は無責任だ。冷静であれば良く分かる事なのに、その場になれば幾らでも無責任になる。それだけの事なのか?
俺は確実にあいつを救うだろうな。一人よがりだとしても、確実に救うだろうな。否、俺だけだろう。そこに集約する為に、今日彼に出会ったんだろう。
見てみろ。見せてみろ。訳知り顔で先を見たか? それは自分の爪先ぢゃなかったか? 爪先さえ見えてないのぢゃないか?
ほんの少しの先だが、俺は見えてしまった。我をなくすか? その為に交換条件をつけるか?
俺ってなんて不死身なんだろう。

「馬鹿は夏に風邪をひく」なんて言いますが、どういう訳かこの私、夏に風邪をひいてしまうのです。
なんだろなぁ〜……賢い方でもないけれど、それ程馬鹿でも無いはずだがな……。
兎に角、手強いですよ夏風邪は。
補給した水分が熱と暑さで寝汗にかわり、布団蹴飛ばし寝汗が冷えて体も冷える。おのずと熱上がり、ぶり返す。
翌日の朝の目覚めの悪さたるや間違ってうんこ食べちゃった様な気持ち悪さと、熱によるdecadentな快感で活性酸素指数が軽く二万超えをして、体の周りには幾重にも旧式な襞状に散らばる病原体共がところ構わず暴れ回り、鼻の奥の方まで息苦しくさせやがるコンチクショー! 蟹野郎! な朝、月火水。
あまりにも辛い。
あまりにもひど過ぎる。
こちとら「カチン」ときたら容赦しないぜ!
たかが風邪ごときで面倒臭い真似しやがって!
こうなりゃ真っ向勝負だ。覚悟しやがれ!
捻り鉢巻き つむじに乙だ 冷やし水頭にブッ掛けて 灼熱太陽背中にしょえば わたしゃ発つ鳥波に聞けちょい チョイナチョイナ。
で、治りました。絶好調8分の5位で生きています。
それとはまた別の話で
「他人の事、馬鹿って言ったら自分が馬ぁ〜鹿!」
これの真意が最近よく分かる。
『梅雨時期に聴きたくなるドーナツ盤・ベスト10』残り5曲。やけっぱちのカーニバルで完走を目指す!
5. 山下達郎さんが歌う「ダーリン」です。
「RIDE ON TIME」のB面でした。
原曲はビーチボーイズです。
某FM局での達郎さんの番組では、他にも色々なカバーを折にふれ流していますが、これが一番好きです。
達郎さんは徹底的なこだわり派です。
そのこだわり加減は度を超えていて冗談の様です。
しかし、濃厚な搾りたて牛乳には少数でも需要があります。
本物の味って何だろう?
そう思ったら、やはり一度は飲んでみる事です。
この「ダーリン」は飲みやすく分かり易いと思います。
水で薄めた牛乳など誰も欲しがりはしません。
ちなみに私には濃厚牛乳はパンチが強過ぎて、Pになりがちで……。失礼しました。
カビの生えやすいこの時期、カビの生える余地など無い濃厚な達郎さん節は、怠さを吹き飛ばして活力を与えてくれます。
4. 渡辺真知子さん「海辺の昼下がり」です。
これも「くちびるよ熱く君を語れ」のB面曲です。
確か本人の作詞・作曲でした。
今更ですが、いままでの文は全て資料なしで書いています。現物のレコードも手元にはありません。
私の記憶と思い込みだけで綴った詳細なのです。
しかし、こういった個人的な切り口の方が受け手も楽ではなかろうか……と思います。失礼。
なので真実の詳細を知りたい方は自分で調べる事をお薦めします。
この曲を聴くと目前に迫る夏が楽しみになります。
波打ち際をチャプチャプと歩き続けたくなる曲です。
いかにも「夏!ギラッ!」といった押し付けがましさは無く、そこはかとなく夏を感じさせる冷麦の様な佳曲です。
また曲の良さに加えて、編曲の良さが後押しをしています。
編曲は船山基紀さんです。曲と歌が冷麦なら、編曲は極上のめんつゆです。
誰のものだったかは忘れてしまいましたが、「この曲、心地良いなぁ〜」と思いクレジットを見たら、編曲が船山基紀さんでした。
かなりのめんつゆ職人だと思います。
どうですか? おいしい冷麦を食べながら夏を待ってみませんか?
3. 2. は一緒に綴ってみます。
「私はピアノ」は原由子さんの曲なので、どちらもサザンと云う括りで宜しいかという事です。
私がローリング・ストーンズをも知らない頃、「NUDE MAN」と云うアルバムに出会いました。
サザン好きの友人が頻りに薦めるので、なんとな〜く針を乗せてみたところ……。
「かっこいい……」
やっと毛が生え揃い、男性ホルモンを分泌しだした頃の話です。
今でも「NUDE MAN」までのサザンは大好きです。
あの絶妙な毒の含ませ方が素敵なのです。
“たまにゃ Making Love そうでなきゃ Hand Job〜”とかね。
ジュリーとは違う意味で、歌謡界でロックしようとした人達だと思います。
なのでレコード時代の音楽体験の中で、サザンは結構大きい訳です。
ローリング・ストーンズを知らなかったからなぁ……。
そんなサザンに敬意を表して2曲選んでみました。
そして最後は大沢誉志幸さん「そして僕は途方にくれる……。」です。
最後は連想ゲームでお送りします。
「そして僕は途方にくれる……。」といえば「カップヌードル」
「カップヌードル」といえば「日清」
「日清」といえば「ヤング O!O!」
「ヤング O!O!」といえば「日曜の夕方」
すいません。これ、一部の地域の方にしか通用しませんね。
兎に角、この曲が流行った当時の日曜日の夕方
「もうすぐ雨のハイウェイ〜」
を始終耳にしましたね。
このレコードは自分で買わなかったなぁ。友人宅で聞いていた記憶があります。
確か流行ったのは梅雨の時期ではなかった様な気がします。
結局のところ梅雨の時期など関係無く、レコードの事を思い返す時に甦る記憶が十代半ばから二十歳までであり、特に14〜18歳の記憶と絡み合って出てくる為に、音楽的な価値を超え何か特別な意味があったような気がしてしまう。
レコードに針を下ろす事で過去の自分に出会い、過去の友人に出会い、過去の時代に出会う訳です。
ぐるぐる回る地球の上で、日々の生活をがりがりと引っ掻きながら、ふと……
「そして僕は途方にくれる……。」訳です。
しかし、それはドーナツ盤が演出する『45回転の幸せ』なのだと気付き、裏面(アザーサイド)に期待しながら、またぐるぐると回り続いてゆくのでしょう。
完。

『梅雨時期に聴きたくなるドーナツ盤・ベスト10』の十曲、これ全て昭和の曲です。
もっともレコード自体が昭和から平成へ年号が替わった頃にその姿を消しだしたのだから、レコードの話をすると自ずと昭和以前の話になる訳で、現在25歳以下の人にはカビ臭い話どころか意味不明に聞こえるかも知れませんが、「唄は世につれ」と言いますからちょっとした時代考察には為り得るかも……?
否、単純に欲求に従っての勝手な言い分です。
10. 竹内まりあさんのこの曲、なんとも軽いです。
なんといってもピーチパイですからね。
アップルパイでもカスタードパイでもなくピーチパイです。
食べた事はおろか、見た事もありません。しかし、何処かで売っていそうではあります。
このピーチパイに「不思議な」と冠がついて甘さが六割増しになっています。
“隠しきれない 気分はピーチパイ”
……意味不明です。しかし無意味に甘く、無意味に軽い「何か」が歌声に後押しされて迫ってきます。
正しく「不思議なピーチパイ」です。
竹内まりあさん以外が歌ったら薄くなったと思います。
アメリカン・ファミリーの娘さんが、この曲を聞いた途端思わず……
「パパ、帰りにピーチパイ買ってきてね」
と電話しそうな魅力があります。
どんよりとした梅雨空に圧さえ付けられた気分を晴らすには、うってつけの一曲だと思います。
9. 原田真二さんのこの曲、こちらは「青い」です
Teen'sの部分が「てぃーんず」と表記されるところなど、こちらが恥ずかしくなる程の青さです。
「ぶるーす」と後ろに付いていますが、その辺は大目に見て下さい。
なんせ「青い」のですから。
若さとは背伸びしたがるモノなのです。
意地の悪い見方をすれば、ショボい青春をブルースと呼んでドラマ化し歌っている訳ですが、「青さ」丸見せなトコロが上回って爽やかに聞こえます。
ポイントは曲、それ自体です。
Aメロのきりきりと、しかしスムースに上がってゆくメロディーは見事です。
「青さ」など微塵も感じさせません。
この「青さ」と「青くない」部分が相成って、絶妙な「青」を浮かび上がらせます。
青空が少ないこの時期、青が足りない体にぴったりの一曲なのです。
この辺で若干の後悔が生まれてきました。
欲張らずにベスト3くらいにすれば良かった……。
今回、珍しく読み手を意識した文体で続けたのが失敗でした……。
果たして1位まで辿りつくのか?
8. 南佳孝さん「スローなブギにしてくれ」です。
「してくれ」ですから何かを求めている訳です。
前曲とかわって、グッと大人の世界です。
大人故のブルース臭も若干滲み出ています。
都会と云うか、街の臭いもします。
あまり関係無いですが、農業や漁業の世界からは北極と南極位に離れています。
……実は愛唱歌です。都内某所で「流せない流し」をやっていた頃、この曲をよくリクエストする方がいたんです。
妙なジャズギターを奏でる人でした。
丁度この時期によく歌っていたな……と。
7. ジュリーです。素晴らしく格好良いです、ジュリー。
当時、歌謡界のトップで変化自在に活躍してました。
レコード大賞を取りながらも、「8時だよ!全員集合」で忍者の格好して志村けんと西瓜の早喰いとかしてました。
一見すると、唯のタレントです。
……がしかし、その実は歌謡界でロックしようとした素敵な方です。
歌い方に独特の癖があります。
その辺がツボにはまるか、はまらないかで好みが別れると思いますが、映像で観ると格好良過ぎて痺れる事受け合いです。
昔は西新宿で海賊版のビデオが売られてました。
歌番組からCM、ドリフにレコード大賞まで出演したものを誰かが自力編集したものですが、かつて歌謡界でそんな海賊版が出回った人が他にいるのでしょうか?
その中に「お前がパラダイス」も収録されていたと思います。
後ろで吉田健さんもベース弾いてコーラスしています。
ジュリーは結構、ミック・ジャガーだと思います。
ストーンズの様に男ばかりでコーラス部分を歌っています。
暑苦しい程の素敵な画です。
暑苦しい梅雨に暑苦しい程の画。
毒をもって毒を制す。と云う訳です。
6. さて、「Tシャツに口紅」です。
良い曲です。作詞は湯川れい子さん、作曲は大滝詠一さんです。
歌の舞台は夜明けの海です。
今まさに別れるかと云う二人の駆け引きを、綺麗に描いています。
こう云うの少し憧れます。
否、ストーリーではなく、こういった作風にです。
全体的に「やや」といった感じです。
やや、しょんぼり。やや、酸っぱい。やや、涼しげ。
日の出の描写があるので雨の唄では無いのですが、雨の日に海で聞いたら「やや染みる」と思います。
その雨も豪雨ではどうにもなりませんから「やや雨」な日に限ります。
そして秋だの冬だの潮風が骨身に染みる季節より「やや夏」なこの時期が最適だと思う訳です。
……後、半分か。
やや、つづく。……かも?

CDとレコードについて。
なぜだか良く分からないのだが、CDに光をあてて反射をさせ、データを読取り音楽が流れてくるのは不思議だとは思わない。
しかし、ビニール盤を針がガリガリ引っ掻いて音楽が流れてくるのは不思議だ。
いやね、理屈は知ってますよ。でもね、CDはプレイヤーといい、ソフトといい、明らかにメカぢゃないですか。デジタルと云う一言で簡略されるその仕組みと同様に、簡単に「有り得るだろう」と納得出来る訳ですよ。
でもね貴方、もし貴方がレコードプレイヤーを持っているなら、よーく眺めてご覧なさいな。
はい。ぐるぐる回って、ガリガリ引っ掻いてます。
不思議だとは思いませんか? 否、不思議なはずだ!
特に、シングル盤ね。
ドーナツ盤とも言いますな。
すごいですよ。驚きですよ。くるくる回ってガリガリ引っ掻いてるだけで、もうご機嫌ですからね。
また、その音質はコンプレッションが係っている為、粗暴で猥褻で優雅で哀愁ですからね。まさに大衆音楽の普及ソフトとしては抜群ですよ。
別に懐古趣味と云う訳では無いですよ。
ダイナミックレンジがどうだとか、音質がどうだとか、そういった音響的な話でも無いのですよ。
「なんか、不思議だなぁ。」
正にそんな感じです。
「なんか、素敵だなぁ。」
とてつもなく素敵です。
今現在、CDが音楽ソフトの主流ですし、私も手軽にCD中心の音楽生活ですが、それ故に少し贅沢感を味わいながら音楽を楽しもうなんて時は、やっぱりあの塩化ビニール盤で「ゆったり、たっぷり、の〜んびり」と云う訳ですよ。
ただね、個人的には昔の邦楽のアルバムは繰り返して聴くのが辛いね。なんと云うか……「念」の様なものが強くて、何度も続け様に聴くと疲れます。
なので、唐突ですが……
『梅雨時期に聴きたくなるドーナツ盤・ベスト10』
10. 竹内まりあ
「不思議なピーチパイ」
9. 原田真二
「てぃーんず・ぶるーす」
8. 南佳孝
「スローなブギにしてくれ」
7. 沢田研二
「おまえがパラダイス」
6. ラッツ&スター
「Tシャツに口紅」
5. 山下達郎
「ダーリン」(B面曲)
4. 渡辺真知子
「海辺の昼下がり」(B面曲)
3. サザンオールスターズ
「C調言葉にご用心」
2. 高田みづえ
「私はピアノ」
1. 大沢誉志幸
「そして僕は途方にくれる……。」
詳細はつづく。
なぁ、坊主。オマエに海ってやつを見せてやりたいなぁ。
それも夏の輝けるビーチなんかぢゃなく、荒涼たる北の海だよ。
それでもオマエのことだから、はしゃいでゴロゴロと所構わず、寝そべりながら砂と格闘するだろな。
潮風に当たり過ぎて、くさめを沢山するだろな。
だけど多分一頻りはしゃいだ後で、広大な寄せては返す波の先へ、水平線の遥か彼方のもっとむこうへ、何かに気がついた様にオマエは目を止めるのだろうな。
残念ながらオマエは病弱でおいそれと連れ出す訳にはいかないが、どうかすると病が治って夏草の様にぴんぴんとし、東から三十度北寄りの親類の如くに勇ましくなれば、俺の胸の小さな残影に会いに必ず一緒に出向こうぢゃないか!
あそこなら誰にも気兼ねせず思う存分語り合えるぜ!
オマエは言語を越えて示唆すんだろな。
それでも俺は馬鹿の一つ覚えみたく行ったり来たりすんだろな。
想像してみろよ。愉快だぜ。
鼻の穴にヒリッと汐を受けて「一握の砂」を拾い読みしたりして。
それでも俺は馬鹿の一つ覚えみたく行ったり来たりすんだろな。
想像してみろよ。愉快だぜ。
俺が小粋な口笛の吹き方を教えてやるさ。
オマエは目を細めて心地好さげに、喉を鳴らして応えるだろな。
想像してみろよ。愉快だぜ。
しかしオマエ……またなんで尻尾なんだ。
田舎の真夜中を 長距離貨物が駆け抜ける
からっぽの夜なので 轟音が尾をひいて俺をも引っ張ってゆく
昼間の内に何処かで芝を焼いたらしい
暗い湿気の中に けぶたいものが混じっていた
貨物の吠えは遠のきながら 果てない深さに飲まれていく
この瞬間 俺の世界は絶妙なバランスで静寂をばら撒いた
イエイ、イエイ、イエイ。
夏よ、来い!

俺の主観論なのだが、駄目男にルールは無いのだろう。
その代りと言っては何だが、溢れる程の『熱』があるのだ。
その『熱』に男惚れし、遮二無二憧れてしまう俺。
冷静さを取り戻し「何故なのか?」と自問してはみるのだが、一度あの声に触れてしまうと忽ち振出しに戻され、より一層深みに陥ると云う訳だ。つまりはあの声に何か得体の知れない『熱』があると云う事だろう。
それは才能だとか、努力の賜物だとかではなく、その個人が持つ人格の、中心で燃え盛る生命エネルギーの『熱』なのだが、その核が恐ろしく高圧で高出力であるが故に、技術などでは到底及ばない「鋭さ」と「優しさ」を携えて、俺の胸の中心部を突き抜けてゆくのだ。
# Lesson 1
ギターとピアノについてその違いを考えた時、同じ弦楽器でありながらも向き合い方がまるで違う事で、音の性質が見事に真逆だと云う話を以前ある人とした事がある。
俺はピアノが全く弾けないので、何とも解する事が出来ないが、確かにギターと云う楽器は反則だらけの利点があると思う。
然るにピアノは、正に真正面で向き合い演奏する為、嘘がつきづらいのではなかろうか?
ルール無用の彼が反則だらけの楽器を持った時、ロック=ギターの図式が完成したのだ!
しかしそれは、音楽的素養などが原動力になっていた訳では無く、彼の計り知れない「何か」、つまり核が放出する生命エネルギーがギターと云う楽器に激しく反応した結果だ。
彼自身、ギターに出会うずっと以前の幼少時「自分は天才だと思っていた」という話からも、音楽でなくともよかったのではと思わせる。
だが彼は駄目男なのだ。中原中也が「美の本質を知っているのだが怠惰を逃れる術がない」と言った様に、逃げ場の無い場所へ自分を追い込んでしまい、道化を演じてしまいたくなる男なのだ。
ストイックに自己探求などしないのだ。
そんな時、反則だらけのギターはこの上なく魅力的だったに違いない。
なんせ反則する度に次の扉が開かれるのだからね。
# Lesson 2
更に彼は、そのキャリアの壮盛期に運命的な出会いをする。この瞬間、自称天才が本物の天才になったのだ。
天才は異端児だ。それ故に歪み易く脆い部分を抱えてしまいがちだ。
ところがそこへ、歪みをあたかも完全犯罪の様にポップの中へ忍び込ませる最良の理解者が現われたのだから奇跡に近い。天才は天才を知ると云う事だな。
この出会いが彼を音楽家にしたのではないかと思いますね。
あぁ、素敵……。
# Lesson 3
先日、ある飲食店で彼の創った音楽が流れてきた。次の曲も、そのまた次の曲も延々と巨大な英国団の曲だった。
しかし注文を取りにきた店員に「本日の日替わりはこちらです」と別世界から話かけられ「あぁ、これぢゃ百円ショップで並ぶ商品と扱いが一緒だ……」と思ったらラブレターを書かずには居られなかった。
拝啓 ダメ男様
物の価値がどんどんと変えられてしまいますが、あなたへの俺の想いは変わりませんよ。

「おい! そこの君。俺を野良だなんて言ったり、飼われているなんて言うなよ。遺伝子操作や迎撃ミサイルとかプロバイダーとかが並列なのか直列なのか、またそれ自体が文明であるとか背徳であるとか誰が理解するというのか君は答えられるのかい。それらと全く同じ理由で春夏秋冬の均整に設けられた右往左往するだけの十字路で、歯磨き粉は世界に必要とされているのか? とか西瓜の切り分け方をご存じですか? とか明らかに見当違いの問答を繰り返し、碁盤の目を丁寧に塗り潰しながら誰が満腹で誰が利己的で私は孤独で君は聖人で彼が野盗だなんて口に出して呼んでしまい、忽ちそれ以外の呼び名が存在する事を海馬の中に見つけようとさえしない早合点をするなら、いっその事地球が回っている最大公約数も忘れてしまえ。」
君を好きだと云う事
レイ・ディビスは素敵だ
理解することを飛び越えている様に見えるから
心の機微は相対性理論だぜ
説明されると面倒だもの
ブリキの太鼓を打ち鳴らし 聡明なる君は何も尋ねない
俺のダチは天才だ!
常に一言でけりをつける
「あぁ、いいぜ」
大体は自滅する為の逃げ道を探している楽氏達に 是非とも復唱して欲しい
「あぁ、いいぜ」
愛ってのは簡単なブルース・モーメント
スクールママをハッピーにするにも愛は必要だ
「愛してる」なんて小便臭いぜ
「あぁ、いいぜ」で地球を震わせろ

結論から言えば、自分を客観視する術が欠落しているのです。
随分と前から体中の歯車は軋み、瞬発的衝動が内包する巨大な動力の伝導に依って尚、酷使を続けた体は最早どこをどう改修しても何が正常で何が異常なのかも分からず、空虚で在れば美しくもあろうなどと考えてしまうのだが、一歩退いて巡らせばそれも現実逃避の様に思われ「さぁ、君は何者なのか?」と湿っぽい空気に二酸化炭素を吐くだけの自我の剥奪者なのです。
しかし、この青白くテラテラと光る胸の内の漁り火は、まだ何かを吸い寄せるが如く烈しく粉を噴いては、イマジネーションの扉を照らすのだ。
俺は俺をも識らない。
俺は君をも識らない。

今やこの船も大分沖に出てしまった為、当分の間は寄港地なども見えてこないだろう。
定員一名の小艇なぞ、力の限り波を乗り越えども、進む距離は目に見えて僅かなのだ。
この航海に於いて、ナイーブである事はとても残酷である。
海原の真ん中では呼べど叫べど波に押し戻され、塩っ辛い海水の飛沫を頭から被り、目を開いている事も難しいのだ。
出来るだけ頭を空にし、風向きや潮流に逆らわず流されず、結局は両手両足とこの忌々しい知恵で操舵する事で得る疲労感、その海に沈んでゆくしかあるまい。
そんな船に君も乗り込もうと言うのか? 毎晩、毎晩オレの傍に錨を下ろしては舮を繋ぎ、そんな信頼した目で語りかけても教えてやる事は出来ないのだぞ。
さぁ! 君の先祖が何だったのか思い出してみろ!
そして 生きてる間 吠え続けろ!
海の水が無くなる事はないのだから。

喜びも悲しみも全部君の心から生まれるのだよ。
いや、待てよ。太平洋だったかな?
いや、待てよ。太陽系だったかな?
いや、待てよ。電子と分子と中性子かな?
いや、待てよ。老人と海の夢に出てくる金色の獅子だったかな?
いや、待てよ。光化学スモッグと光合成に依る限りなき戦いだったかな?
いや、待てよ。搾取と隷属と大衆の神隠しにあった理想郷で聞こえてくる流行り歌だったかな?
いや、待てよ。風が吹いたら桶屋が儲かるだったかな?
いや、待てよ。オッペケペッポーペッポッポーだったかな?
いや、待てよ。勝てば官軍だったかな?
いや、待てよ。虎穴に入らずんば虎児を獲ずだったかな?
いや、いや、いや、いや、だけどね、純然たる事実として君はお母さんから生まれたのだよ。
あの通りに面したガラス戸の家の話だよ。
爺ちゃんと婆ちゃんで暮らしているんだ。
通りすがりに少しだけ中を見ると、変な形のサボテンとか水槽とか職工の人形があってな、その向うに何かの機械があるんだよ。
家の中は明るいと云う程に灯りがついてたりはしないんだ。そうさな、薄ぼんやりって感じだね。
薄ぼんやりの中、謎の機械の前に座る爺ちゃん。
決して何かの商売をしている風でも無いんだよ。
あくまでも俺の勘なんだけど、あの機械は木工作業の機械では無いと思うんだな。
金属の螺旋とか歯車とかさ、そう云った部品を拵えているのだと思うね。
またさ、家の外観から考えると住居部分と作業場(?)の割合が不自然な気がするんだな。今一、生活が見えてこないのだよ。始終作業ばかりしているようなさ……。
つまりは凄く気になってるって訳なんだよ。
何度も、声をかけて尋ねてみようと思ったが、「なぁんだ」なんて心無い一言で幕を閉じるのは勿体ないからね、通りかかる度に勝手な想像を楽しむ事にしたんだよ。
俺の勝手な想像の中では、あの爺ちゃんはロケットを作っているのでは……と云う事にしたんだよ。
またさぁ、作りそうなんだな、その爺ちゃん。
そんで隠れてそうなの、あの家。ロケットが!
何れにせよ創造するのは大変です。
いつもご苦労様です。

目に見えなくとも確かに『かたち』が有る訳ですよ。
人盛りの中で周りを見渡せば「あぁ、なるほど……あぁ、なるほど……」と云った具合に遭遇しますから、嬉しくなったり悲しくなったり大忙しですな。
勿論、外側から感じ取れる部分だけを見てる訳ですから、実際はどういった関係性かは分かりませんが、その位が丁度良い塩梅でして、適度に揺らされ適度に起こされ適度に目を閉じたくなるのですよ。
是非、君にも体感して欲しいです。驚く程に様々な形があるのです。
本だのテレビだの映画だのネットとは訳が違うんですよ。
すぐそばで同じ空気を吸って吐いて吸って吐いてとしている話なんです。
こんな事をしてる間にも君が、君が、君が、笑っていたら幸いですが……。
コレも一つの『愛』のかたちです。

今日『クローディアスの日記』に出会ったのは偶然か? それとも必然なのか?
久方ぶりに恐怖心と云うモノを憶えた。
知り得ない何かが圧しかかる事など、もう有り得ないだろう俺様は、正に恐いもの知らずだと思っていました。ほんの三時間前まで。
あの街の金属的な硬質感に違和感を浴びせられ、次から次へと溢れだす思考と感情の温床が行き交う中を彷徨った挙げ句、胃の奥の方で膨らんでいたモノが恐怖心だったとは……。
しかし気付いてしまえば、恐いことでも無い。
やっとこ少し楽になった。
冷静になれば、とてつもない皮肉だと解釈する事も出来るが、何よりもかによりも素直に感謝したい。
志賀直哉さん、ありがとう。
現場:昭和五十一年 目黒区
「うめぇ〜」
東横線の高架下の片隅で、甘いジャムを口の周りにへばり付けながら、タットは思わずそう漏らした。
「こんなモン、初めてくったよ!」
実際初めてだったのだ。駅前に出来たばかりのそのドーナツ店は、タットにとって見た事も聞いた事も無い店だった。
指先に残るジャムを丁寧に舐めながら、こんなモノを毎日食べられたら、どんなに幸せだろうかと考えていた。
そんなタットを見ながら、ハチャマはこの後の計画を頭の中で、もう一度確認していたのだ。
「あと、一体なんだ……」
その東横線高架下の片隅には、小さい子供が二人すっぽりと隠れられる秘密のアジトがあった。
ソレはせめぎ合う様に並ぶ建物の間で、片側の廂が隣へと張り出していて、巧い具合に屋根を提供していた。
また左側の建物からブロック塀が巻き込む様に有る為、出入りするトコロを目撃されなければ、そこにアジトとなる空間がある事など誰にも分かりはしないだろう。
その片隅のアジトの、これまた片隅に、二人の宝の山があった。
お互いの家には持って帰る事の出来ない宝達だ。
二人は方々でちょっとした誤魔化しをやらかしたのだ。
バスクリンのおまけから超合金まで、望んだところで親達に一蹴され、実物を手に取って見る事さえ叶わない物達が集められた。
一番の目玉はミクロマン・ロボだ。
手足胴体にミクロマンを収納できるソレは、ハチャマが三度も母親の財布からチョロまかしを働き手に入れたモノだったが、二人が持っているミクロマンを全部格納しても、一体分の空席が残った。
ハチャマはそれが気に食わなかった。
しかし母親の財布の紐は堅く、二人の懐は住所不定なのだ。
つづく。