この土地にStreetなんぞは無いけれど、道は何処にでも有るっけな。
本音を言わせて貰えば、温度差がチョモランマとマゼラン海溝位はありますが……。
「それがどうした!」
卑語なのか? エゴなのか? 謎なのか? マゾなのか? その胸の内は形にすると曖昧かも知れないが、明確な一点に集約されているのです……。
だから起つ事を決めました。本日、今さっき。
ニーチェもゴッホも音次郎もエルビスさえもブッ飛ばす。
肝心なのは初心を忘れない事でした。
一年かかろうが二年かかろうが火を着けてやるからな!
見切り発車はいつもの事だ! 旅は道連れ世は情け、明日は明日の風が吹く、笑う角には福来る。
2/17の続編でゴザイマス。
そこは日本アルプスを巡る登山者達が集う宿場で、俺とボリさんの共通する『知り合いたくない知り合い』雲助のバイト先……らしい。
しかし靄がひどくて、辺りの様子がよく分からない。大分高いトコロに居るのは確かだが、下界は全く遮られている。
「先輩、雲助さんは本当にココでバイトしてるんすか?」
またか……。
あのさぁ、俺達午前中はトーキィオ・シティに居たぢゃない? ココ、今、日本アルプスだぜ! そこんところを拘ろうや。
「あ、雲助だ」
「やったぁー!本当に居たぁ」
あのさぁ……もういいか……言うだけ無駄だな。なにはともあれ、ホッとしたなら少し散策しようや。日本アルプスですから。
ロッジの裏手から、人の体力を試す様な登り坂が伸びている。周りの方々は見事なまでに登山ルックで、試される事が嬉しいとばかりに意気揚揚と登っていく。
俺達二人は殆ど意地で後を追っていった。
すると、するとすると、出たぁ_日本一標高の高い露天風呂『仙気ノ湯』
ここまで来ると、すっかり雲の上らしく視界もハッキリしている。見上げれば日本アルプスの尾根。下は雲海ですよ。上空に月光を邪魔する野暮なモノなど何も無いから月が眩しい位です。運が良ければ尾根を渡る熊の影が月明かりに浮かぶらしい。
「どうだいボリさん、思い付きで来た割りには最高ぢゃないかい?」
「あぁ……雲助さんが居てホント良かった」
おいっ! (怒)
確かに、かれこれ二時間位は人影が現れない無人駅で、会話の種も見当たらず、線路と駅の時計をにらめながら、節の定まらないハーモニカでその日の行方を誤魔化していたのさ。
さっきのタクシーの運転手が言う程、去年の台風はでかかったっけかな? ボリさんは、この先に雲助が本当にいるのか、気が気でないらしい。何度も同じ返事をする事に飽きてきた俺は、振り向きもせず生返事で流してゆく。
「どの道、後戻りなど出来やしないんだから、バスに乗るより仕方がないさ。まさか終点がこの世の果てでもあるまいし、一晩くらい泊まる場所はあるだろう。何も無さそうなら、引き返すバスで下ればいいさ」
俺はハープの三番ホールをベンドするコツを掴もうとしながら、胸で独りごちた。
「先輩。バスが来ましたよ。あれっすかね?」
左右にゆったりと車体を振りながら、重賞レースに一度も入賞した事が無い老馬の様なバスが坂を上って来た。
「この上に温泉とロッジがあるんですよね?」
「ありますよ」
見た目に何の特徴も無いバスの運転手が、癖のある話し方でそっけなく答えた。「よし、乗ろう」
この老馬が何処へ俺達を運ぶのか? そんな事は全く分かりはしないが、今は兎に各この生気の無い駅を離れて、陰気臭いツレの質問攻めを封じる事だ。
バスの中は、床板に塗られたワックスの臭いが微かに漂う。スカーフを被ったおばちゃん達が、地元の言葉で遠慮なく話す声が後部座席から聞こえる。
俺達の他は運転手と、このおばちゃん達だけだ。
ボリさんと俺は一人掛けの座席に縦に並んで座った。
「先輩!窓の外を見てくださいよ!」
発車してからそれ程時間が経たない内に、辺りの景色が様変わりしていた。
綿菓子の様に、辺り一面が靄に覆われている。よおく目を凝らして見ると、綿菓子越しに左は崖、右は山肌が続くのだ。老馬が山のウネリに合わせて曲がってゆく度に、右と左の景色が入れ替わる。
「こんなトコロに雲助さんがいるんですか?」
またか……。雲助が居たら何だって云うんだよ! その考えをまず捨てろ! 俺は今、とってもご機嫌なんだぜ。こいつは中々、体験出来やしないぞ。この靄は恐らく雲の中なのさ。路線バスが雲の中を運ぶなんざ、ちょっと洒落てると思わないか?
ボリさんは何時も、無計画な俺の行き当たりバッタリな旅の犠牲者だった。
航空券取って、宿を予約した沖縄行くより面白いと思うがなぁ。
やがて老馬がその足を停めると、旧校舎の様な建物が……。
以下、つづく。
心と体は一つのはずなのに、やけにイラつくなぁと思ったら体が疲れていたらしい。
目覚めが良かったのに午後から足にきた。若干、腰も重い重い。
そんな日に限って誤解と勘違いがフル回転で、あえなく思考回路停止。またか……こんな事が何時まで続くのだ! クサクサしてたら腹がたつやら、情けないやらで逃亡しようかと短絡的発想が手招きしたが、「捨てる神あれば拾う神あり」思わぬ救世主の登場で難を逃れた。ありがたや、ありがたや。
よっしゃ! 少し勢いを取り戻したからには、一年越しの願いを果すべく、いざ、約束の地へ!
たかだか一時間ばかりで五感に伝わる情報が様変わりしてゆく。そのギャップに疑問を抱いたり、嫌悪を覚えたトコロで何の解決にもなりはしないから、ひたすら「無」でギリギリの、ヒリヒリな遠浅の人波を泳いで泳いで……。
やって来ました、修業寺! 四角四面の四角い角から、音頭取るのは伊達大将。景気をつけろ! 塩まいておくれ! 祭りだ! 祭りだ! ワッショイワッショイワッショイワッショイ。
なんのなんの、まだまだ闘えますわいな。弱音とゲロは吐きません。そしてそして、そして陽はまた昇る。誰の上にも。
オレンジ色の雑踏の中から久しぶりに見た不夜城は、今の俺には眩しすぎて恐怖心さえ感じてしまう。
その不夜城から西に位置する秘密のアジトへと近づくにつれ、緊張感が手足を縛りつけた。
その扉の向こうには、咆号する者達が共鳴しながら幾色もの汗を光らせる。
やばい。非常にやばい。俺は今、誰と闘っているのだろう? 目に見えない何かと、一体どう戦うのか……。もしかすると一人相撲なのか? 考えれば考える程に、問題を増やしてゆくようだ。
誰が何時からそう呼んだのか、マントというあだ名の奴がいた。
子供同士でもつ関係には、意味も脈絡も無いから、楽しくも憎々しい呼び名がまかり通るものだ。
マントには兄弟が居なかった。親父さんも居なかった。母ちゃんとベンという名の薄汚い雑種犬が、マントの家族だ。
ベンはヨレヨレの老犬で、その鳴き声は山羊のように弱々しく、尻尾の先がちょん切れた不恰好な犬だが、マントによくなついていて小学校のプール裏のあぜ道まで、毎日ヨタヨタしながらマントを迎えに来ていたっけ。
マントはしょっちゅうオロナミンCを飲んだ。一気に飲み干すと、その空瓶をきまって電柱やアスファルトに叩きつけて、木っ端微塵にしたものだ。
当たり損じると粉々にはならない。綺麗に砕け散らすにはコツがいるのだ。
マントは失敗すると舌打ちをしてその破片へと毒づき、成功すると口笛を長く延ばしてその破片に目もくれずに歩きだすのだった。
ベンは瓶が割られる度に怯えて小走りに遠退いた。
そんな光景を何度も目にした俺は、一体マントは毎度毎度どうしてそんな事をするのか不思議でならなかった。
マントには自転車がなかった。家に車もなかった。筑波山へ遠足に行った時には「俺、こづかいねぇんだ。わすれちゃった」と言ってバスのまわりをウロウロしていた。
だから不思議なんだ、マント! いつもどこで、どうやって買ってくるんだよ、オロナミンCを!
「家にいっぱいあるんだよ」って言っていたけれど、お前んちへ遊びに行ったら母ちゃん、麦茶をもってきたじゃん。
我が家は米屋からプラッシーをケースで買っていて、その空瓶でマントの真似をしてみたが、上手く砕け散らなかった。やはりオロナミンのビンが手頃なんだよな、マント!
あの日は丁度、今時分の寒い冬の土曜日だった。その日は前の晩から降り続いた雪で一面覆われていて、ガキんちょ達は午後の計画で皆浮かれていた。
俺はマントと並んで、最近図書室に入った新刊図書の宇宙怪奇シリーズ話に熱をいれながら歩いていた。
数歩先をベンがヨタヨタと先導している。
運が悪かった。その日に限ってビール瓶が突き刺さる様に半分雪に埋まって落ちていた。
そしてその日に限ってマントは、ビール瓶を叩き割ろうと試みた。割れるには割れたが、砕け散りはしなかった。そして恐らく、その破片の一つがベンの後ろ足に当たったのだ。
ベンは聞いた事の無い鳴き声をあげて走りだした。
そして軽トラックと衝突したのだ……。
俺もマントも動けなかった。じっとベンの様子を伺うだけだ。運転手は暫らくかがみこんでベンを覗き込んでいたが、そっとベンを脇に除けて、行ってしまった。
マントはそれ以来、その特技を封印したはずだ。オロナミンCを飲む姿さえ見なくなったんだから。
かつて十七山と呼ばれた場所は今、新しい列車が開通した事に合わせて県道がはしっている。
あの日、俺とマントがベンを埋めてやった辺りは検討もつかないが、先日「この辺だったよなぁ」とウロウロしていたら、オロナミンCの空瓶が転がっていた。俺は無性に叩き割りたい衝動にかられたが、手にする事もなくバイクのキックを蹴り下ろした。筑波山が落陽を浴びて桃色に染まっていた。
君は知ってるかい? それとも知らない?
分かるわけが無いと思ったんだとさ。バレバレだよ。目に見えても、見えなくても、耳に聞こえても、聞こえなくても、暑くても寒くても、甘くても苦くても、香っても無臭でも、通じるモノは通じるし、通じないならそれまでだ!
白と黒と赤と青と黄と緑。
土と水と空と気と木と一人。
朝と昼と夜と闇と月と星。
殻で更で旧で廻って全て。
品と貧と不と冨と心。
ゴミと民と雄と優と黄昏。
大と弟と小と妹と丸と核。
破と貼と拡と光と力。
凛と淋と怠と堕と舵。
おはよう。こんにちわ。さようなら。おやすみなさい。
ジム・ジャームッシュの映画「ゴースト・ドッグ」を観た時に初めて「葉隠れ」と云うモノを知った。
「武士道とは死ぬ事とみつけたり」
その後、三島由紀夫・著「葉隠れ入門」を読んでみるも半分以上が分かりません。
そもそも武士ではないからなぁ。俺解釈では「いつなんどきでも覚悟はしとけ」と云う事なんですが、「死ぬ事とみつけたり」の言葉の鋭さに、君主に仕える武士の覚悟が伺えますよ。
そして映画では芥川龍之介・著「藪の中」が引用されてゆく。
色々な立場、その角度によって全く異なった内容になってしまう一つの出来事。あの映画、もう一度観たいなぁ。
ところで最近、何だか気にくわないのが「_言葉の力を信じます」のコピー。明確な理由は無い。なんだか直感的にウソ臭いんだな、アレ。
あのコマーシャルには、かつて松任谷ユミに抱いたウソ臭さと同じモノを感じてしまう。
覚悟があんだか、ないんだか。全く以て藪の中だ!!
ガチャ。ガチャガチャ。
「鬼は外、鬼は外、福は内、福は内」
バタン。
豆だらけである。ベッドの周りもテレビの辺りも。豆、豆、豆だらけである。
中野五丁目天神様の近く、袋小路の突き当たりのガタピシと軋む階段を登った右手に、その奇妙な部屋はあった。
大家さんは明治生まれの婆さんである。
それはアパートでは無かった。その明治生まれの婆さんが暮らす家の二階であった。
不動産では六畳とうたっていたが、行ってみると三畳二間であり、間違いではない。確かに六畳ある。ただし三畳と三畳の間に一畳位の廊下があるのだ。片方の三畳には、さらに一畳位の台所がついていて、友人達は「3LDKだ!」と囃たてた。
その奇妙な造りと格安の家賃にひかれて間借りをしていたのだが、問題が一つあった。明治生まれの婆さんである。考え方が古いとか、新しいとかではなく理解出来ないのである。借りていた部屋は内側から鍵が掛けられたが、婆さんの家であるから、合鍵を使って自由に出入りをするのだった。
その年の節分は日曜日で、俺が朝寝をして奥の三畳で体をのばしていると、冒頭の一幕である。
誰が何と言おうと婆さんの家であるから、節分に豆をまくのは至極当然である。間借りの俺の都合はお構いなしに、合鍵で入ってきて豆をまいて出ていった。
部屋中を豆だらけにされた俺は、年の数だけ拾って食べ、残りを窓の外へと放った。
あの婆さん、まだ元気に豆まいたかなぁ。
水面がささくれだらけでキラキラと乱反射している。
「晴れちゃいるけど風があるんだな」
牛久沼を右手に見ながら六号にポンコツトラックを走らせてる俺へ、不意にラジオから『Jumpin' Jack Flash』がとびこんできた。
すると、あのギターリフと共に意識が時空を超えて、以前暮らした町へと翔んでいった。
暑い八月の夕暮れだった。アスファルトからはまだ陽射しの名残が立ち上っていて、鼻孔の奥をチクチクと刺している。
俺は汗ばむ肩にタオルを引っ掛け銭湯へと歩いていた。
その時、背後から聞こえてきたんだよ。
「ゆーやけこやけでひがくれてえーやーまのおてらのかねがなるーぅ」
買い物自転車の後ろ、子供用座席に反対向きで座ったハナタレ小僧。推定四歳。片手にフランクフルト。口のまわりはケチャップ。
「お手手つないで_」のくだりからは、お母さんも一緒に唄いながら颯爽と追い抜いて行ったっけ。
俺は少し立ち止まって「からすも一緒に帰りましょう」まで聞いてから西の方を覗き込むようにして見上げた。太田黒公園の木立から蜩達の鳴き声が、追いかけっこするように響いてくる。
言葉にならない何かが胸を駈け上ってきた。
あの子供は誰の為にでもなく唄っていた。だけどそのころ耳にした、どんな歌よりも『うた』だった。
上手くはなかった。下手でもなかった。否、そんな事問題ぢゃあ無い。
あれは廃れる事の無い「うた」が宿す「ひびき」だった。意味もヘッタクレもない。「ひびき」だ!
おそらく時間を飛び越えてゆけるモノ、それは「ひびき」なんだろう。そんな事を考えながら俺は久しぶりに長湯をした。
いつだってイラつかせるのは、ケツの穴の小さい能書き垂れ野郎さ。
つまらん講釈を並べちまう程、人生がつまらねぇのかお前達は?
もしも、そうであるならばドストエフスキイを読んで恐れ、驚き、震えて、生きて死ぬって事を考えてみろってんだ! すっとこどっこい! 一昨日キヤガレ!
そんな風にヒートアップする俺を諫める様に激しい雨が叩きつける。冷たく熱い激しい雨が……。
マギーの農場はもう、うんざり。
そんな何時もの朝にメンフィスブルースが再び流れだした。
俺は愛しのアノ娘とネンゴロになりたくて隠れ家を探しているところ。
嵐が近づいているからね。
その嵐が強ければ強いほど、あの娘の存在も大きくなるばかり。
いっその事全てをうっちゃって、呼吸が止まってしまう位に叫んでみようか。
ろくでなしの風に向かって。
「愛だろ、愛だよな」
――SINCE 1976.『BOB DYLAN‐HARD RAIN』
「前の家に泥棒が入ってね。テレビとお米券を盗っていったんだって。夜中の2時頃らしいのね。家の人達は二階で寝ていたんだけど、一階で物音がしていても怖くて降りていけなかったって。そりゃそうよね。小さい子供もいるし、盗られちゃった方が良いよね」
「んだども、あんな小さい風呂場の窓から入るっちゃ素人ぢゃあんめな」
「はぁ……」
「タァちゃんの家は小銭ばかり盗られたのよね」
「そりゃ素人なんだべよ」
「色川さんのトコロは夜中にお婆ちゃんがトイレにいったら、窓を挟んで向き合ったんだって。それも怖いでしょうよ」
「駐在に電話したら、本署に連絡しろだっつぅんだからな。逃げっちまぁべな、なぁ」
「はぁ……(タァちゃんとか、色川さんの婆さんとか言われても分からんよ)物騒ですね」
「物騒よねぇ」
「んだ物騒だ」