じゃれ合う様にカラスが四羽、杉林の向うへ飛び去って行く。
西の林の梢は、薄い桃色のベールを少しづつずらしながら、真っ黒な塊へと姿を変貌させだした。
この景色は見事なまでに、子供の頃と変わらない。
世界も俺も充分に時間を食い潰したって言うのに!
全く何も無いんだよ。空と森と芝畑だけ。
カーステレオのボリュームを目一杯に上げて車外に出ると、流れてる曲が世界中に響き渡って、何処か別の場所から聞こえてくるみたいだ。
頭上の空はすっかり青黒く灯を落していた。
「おぉーい、おぉーい。誰か居ないのかーい」
俺は、またもやホームシック・ブルースに捕まって、言葉を失い視線を泳がせる。
こんな形の幸福感もあるんだなぁ〜。
なんだよ! 新年早々こんな朝早く。まだ五時半ぢゃないの! 酔っ払ってるね……。
えっ? マンフレッド・マンのアルバムをくれるって……今から? 後ろでハープ吹きまくってるぢゃん! そんな状態で来られちゃ、アパート追い出されちまうよ。
……あぁ、あの高円寺のバイト先のね。分かった。行くよ。
――しかし正月からゲーセンで男三人、何やってんだかなぁ……。プリクラなんか撮らないよ! 記念になるって何の記念になるさ! 左のスピーカー音出て無いぢゃんよ。壊れてるって? 気持ち悪いなぁ〜片チャンネルで聞く「ストロベリーフィールズ〜」は。
昼頃、ブート屋巡りするって言うけど、店開いてるのかなぁ? しょぼい正月だなぁ〜。あっ! 寝ちゃった! 帰る? 帰ろうか……しょうがねぇなぁ……。
湧きだして、集まりだし、溢れだして、流れだす、澄んだり、淀んだりしながら、落ち窪み、飛沫を上げ、うねったり、潜めたり、ギラギラしたり、ツヤツヤしたり、土砂も運び、香りを乗せて、朝に燃え、夜は映し、何かを産み、育みながら、勝ち負けなど無く、哀しくなって、可笑しくもある、流れて、流れて、流れて、流れて、流れて……。
揚子江でも、アマゾン川でも、ナイル川でも、メイコン川でも、利根川だって、久慈川だって海へと注げば川ぢゃないだろ?
就労ビザでやって来た、愛し麗し笑顔が素敵! 彼女の名前はエンダング。
――フロム・インドネシアなんですか……う〜ん、そりゃぁー手ぶらで行くよりは何か持ってゆくべきだろね。世間ぢゃ、昨日辺りからチャンカチャンカ、チャンカチャンカやってる訳でしょ?
えっ! どうせ相手は何もくれないって。おい、おい恋は求めるもの、愛は与えるものって言うんだぜ!
はっ? 金も無いのか……えっ! 今かい? え〜と夏目さんが三人いるわ。……一人で良いって? 呑み代はツケが利くから? 全くしょっぱいね。ほらよ、さっさと行きやがれ! 幸運を祈ってるぜ。
散々苦労するっちゃ、本当だね。
見上げてごらん夜の星を。古のギリシャ人達も見つめた光が、君の上にも降り注ぐ。
何千年も翔び超えて、誰の目にも輝いている。
俺の目の中で、ちっぽけに映る星達が、全ての事象はちっぽけなモノだと唄いだす。
俺も一緒に唄おうか!
「走れ!ルドルフ!走るんだ!」地図に無い湖の静けさに向って!
――風の流れるままに。
何も考えずに電車に乗ると、そのスピードが烈しく造形の凹凸を奪い、まぜこぜ灰色の味気ない曇天の様に、時間の波間に街を飲み込んでゆく。
この辺りでは、どんな音もどんな言葉も、意味を持たせるには骨が折れるはずだから、日に日に消耗して彷徨う生まれや育ちの判らない難民達へ、小さな器でその渇きを潤そうと、地下組織が錬金術に精を出しているんだね。
ところで、俺の扉は何処へ繋がっているのだろうか?
モーターサイクルの歴史の中で数々の名車はあれど、日本のホンダが造った一連のミニバイクは、アスファルトの上に小さなロマンチストの夢を産み落としていったと思う。
ゴリラ、ダックス、チャッピー、モンキーそしてスーパーカブ!
俺に、その魅力を教え込んだラーコやミっさんは、恐らく二輪車を跨ぐ機会など今はもう無いだろうが、中学生だった当時「そんな事までよく解るよな」と感心させる、オッペケペーなスットコドッコイ野郎だ!
白菜畑に挟まれた真っ暗闇の田舎道を、三人乗りではしゃぎながら、何処へだって走って行けると思っていたっけな。
前略。ラーコ、ミっさん、俺は今も果てない荒野に向って、小粋なロマンチスト宜しく、毎朝シリンダーに火を入れています。
あまりにも空が広いんでね、余り有る戯言をぶちまけてみたんですよ。
するってぇと不思議な事に、どれもこれもいらない物ばかりぢゃありませんか!
もうこれ以上は無理ってぇところまで、捨てっちまえば……まぁ割りと楽になりましたね。
しかし何で子供時代の記憶って鮮明に残るんですかね?
やはり「物より思い出」なんですか?消費社会の資本主義が暴走してますけど。
「盗れるとこから摂ってゆけ!」と言われても、こちとら既に丸腰宵越しヨゴロウザですから、全くピントが合わないですね。
男でも女でも、素敵に笑う人が好き。